四谷保健福祉・清掃センター

YOTSUYA HEALTH CENTER & COMPLEX

設計・建築 中川巌・建築綜合研究所
構造 レン構造設計事務所
設備 エネグリーン
施工 淺沼・ヒューテック・内藤建設共同企業体
敷地面積 1,376.24㎡
建築面積 1,055.16㎡
延床面積 5,127.17㎡
階数 地下1階 地上5階
構造 鉄骨造 一部鉄筋コンクリート造
工期 2012年6月~2013年12月

設計主旨

本計画地のある新宿区三栄町は、新宿駅と四ツ谷駅のほぼ中間にある丘の上にあり、南と北に緩やかに傾斜する住宅地が広がっている。敷地周辺には、かつての花街の面影が今も残り、至る所に入組んだ路地のある荒木町をはじめ、大谷石積み擁壁の上に木造家屋が建ち並ぶ街並みが続いている。

本施設は「四谷地区施設活用方針」に基づき、老朽化した三栄町生涯学習館、駐車場不足や臭気の発生で課題を抱えていた新宿東清掃センター、さらには各所に点在している4つの部、8つの施設を1カ所に集約し、区民の多様なニーズに対応できる複合施設として計画された。

また、計画地前面の三栄通りは、本工事と同時に施工されている電線地中化埋設工事により、将来は架空電線のない街並みが姿を現すことになっている。

本施設は次の3つの要素で構成されている。

  • 区民にサービスする施設(1,2階)

・リサイクルを推進し、廃棄物を適正に処理し、生活環境を清潔にする施設。

  • 区民生活をサポートする施設(3~5階)

・地域の保健福祉活動の拠点として、区民の健康維持、増進を図り、子供から大人まで、心と身体の相談及び支援を行う施設。

・区民が集い、学び、文化活動に親しむ機能・場所を提供し、生涯学習の振興を図る施設。

  • 「利便性」と「にぎわい」のある街並空間

・北の三栄通りと東の御仮屋横丁との交差点には、広場(コーナープラザ)や園地、メインエントランス及びギャラリー等を配置し、他の公共施設と共に利用しやすく、人が集まりやすい、にぎわいのある街角を作り出した。

・また建物北側には清掃センター駐車場への出入口、及びその勝手口を設け、東側に利用者のためのサブエントランス、駐輪場への出入り口を設ける事で、利用者の利便性の向上を図った。

・東の三栄公園沿いには、樹木と緑地帯・壁面緑化等を設け、公園と一体の緑豊かな街並みづくりを目指した。

 

建物外壁の低層部は基壇として、この地域でよく見られる大谷石の擁壁と連続するようにグレーの岩肌風とし、上部には御仮屋横丁沿いの白い公共施設(新宿歴史博物館、四谷税務署等)との一体感を作り出すために白色とした。北側外壁は諸室を凹凸させ横窓を設け、外壁を小ボリュームの連続体とすることで、周辺の街並みのスケールに合わせた。

建物内部の構成は、事務空間を中央に配置し、南側に外部設備デッキと竪シャフト、北側には廊下、会議室、便所、階段とパイプスペース等を設け、中央の事務空間を南北の両面から支える構成になっている。

また、将来の組織変更に対応するために、床はフリーアクセスフロア(25㎝の配管スペース)とし、天井懐と共に他階に影響を与えることなく、改修を行う事ができる。さらに南面には大窓を設け、各事務室に十分な通風、採光を取り、北側の諸室においても、出窓の開口部を東西方向に設け、北側近隣住戸とのプライバシーを配慮しながらも、通風採光を確保した。

内部空間は、荒木町界隈や御仮屋横丁の路地が建物内へ連続する様を建築イメージとした。三栄通りや御仮屋横丁から石貼りの広場(コーナープラザ)とエントランスホールへ入り、階段、EVで上階へ向かい、各階の廊下、ロビーを地域の路地と見立て、床を黒とグレーのストライプのカーペット、北側諸室のパーティションを木目にすることで、路地の木造家屋が連続する様を、街並みとして表現した。

4階には5つの異なる施設があり、相互間の管理を考慮しながら、ガラスパーティション、高い天井の開放的な廊下(路地)により、利用者、職員にとっても分かり易く、気軽に立ち寄ることができるように、ロビーと事務室を明るく一体感のある空間とした。

3階の保健センターでは、ロビーの隣に待合スペースを配置し、ホールの周囲に廊下をめぐらせ、診察室などの諸室の位置が利用者に分かり易い計画とした。

5階には区民が集い、学び、文化活動に親しむために、ダンスや絵画・習字教室等の生涯学習を想定した5つの集会室を、さらに南と北には、緑を利用した一体活動ができる屋外緑地帯・園芸場を設けた。

1階の駐車場には、清掃車のゴミ積替えスペースを設け、そこで発生する廃棄物の臭気を屋上の脱臭装置により、浄化し、排気している。

複数の施設で構成された本施設の中に、周辺の街並みの路地空間を侵入させ、各施設内に新しい区民の路地空間を作り、区民と各施設のつながり、人とのつながりが生まれ、より「やすらぎ」と「うるおい」のある日常生活になることを願って計画した。

(中川匠)