青竜荘

BLUE DRAGON

設計・建築 中川巌・建築綜合研究所
構造 梅沢建築構造研究所
設備 かなえ建築設備計画
施工 大林組
敷地面積 1,117.93㎡
建築面積 106.38㎡
延床面積 208.41㎡(バルコニー含む)
階数 地上2階
構造 木造 一部鉄筋コンクリート造
工期 1987年9月~1988年6月(冬季工事中止)

天に向かって

中軽井沢から北へ約1kmのところに、リゾート用地として開発された“三井の森”がある。敷地はこの森のいちばん奥地の、しかも西北に傾斜した丘陵の頂上に位置し、正面には浅間山が雄大な姿を見せている。この建物は、漢方薬湯会社の研修センターとして、自然の中で自らの心身をリフレッシュさせることを目的として建てられた。そのため薬湯での湯治もさることながら、人と自然との緊密な触合いの場をつくることがテーマとなった。

昭和61年夏、最初に現地を訪れた時、偶然にも興味深い風景に出会うことができた。

セミの声がしみわたる新緑の森の彼方に、青空を背に大きくのびやかに広がる浅間山があり、その頂の周りを左から右へとくるくる回りながら斜めに上昇しては消え去っていく雲の姿があった。その姿は、まるで生きた物のようでもあり、何か新しい生命の息吹を感じさせてくれる光景であった。この風景に出会った時から、少しずつ<大地の中で蠢くようなもの><大地から天に向かおうとするもの><力強い形態をもったもの>を意識し始め、天と地と人間を結びつける建築をつくるには、自然に融合するのではなく、むしろ自然と対立しながらも共存するほうが適当ではないかと考えるようになり、大地から出て浅間山に向かって上昇する竜の姿をイメージしてこの建物を計画した。偶然にも、この会社の商標が「青竜」であると知らされたのも、ちょうどこの頃だった。

「青竜」は、紀元前170年に中国で書かれた「淮南子天文訓抄」の中に登場する4つの守護神のうちのひとつである。本計画は、その4つの守護神を4つのブロックに配置した構成となっており、各ブロックの天井は、東西南北の守護神のシンボルである「蒼龍」「白虎」「朱雀」「玄武」のそれぞれの色(青・白・朱・黒)で塗分けられている。また4つのブロックのどの部屋からも浅間山が眺望できるよう、各部屋を東西方向に配置した。

自然と触れ合う場を多くするため、建物は2本のシリンダーだけで支え、大地に人工の手を加える範囲を最小限にとどめた。南北にはそれぞれ屋根付テラスやバルコニーを設け、リラックスする場として、また日光浴やバーベキューパーティーなどの場として自然の中での生活が楽しめるようにした。

構造的には、この建物が円形平面をしているため、日本在来の木造・柱梁工法は用いず、60×120の柱、60×330の梁および厚さ6㎜のベニヤで全体を固定することで十分な強度を持つ壁式構造になっている。

緑多い自然に囲まれ、4つの守護神を配した象徴的な空間の中で、人々が研修し、安らぎ、リフレッシュできる“場”を意図するとともに、大地から生まれ、今まさに天に向けて飛び立とうとする瞬間の青竜の姿を表そうとしたのである。(中川巌)