阿波観光ホテル

AWA KANKO HOTEL

設計・建築 中川巌・建築綜合研究所
構造 織本匠構造設計研究所
設備 建築設備設計研究所
施工 岡田組
敷地面積 1,212.90㎡
建築面積 963.41㎡

徳島駅前広場周辺は、JR線の高架工事や駅ビルなどの再開発が進められている地区である。その一画にあるこのホテルは、昭和天皇・皇后両陛下をはじめ皇族の方々が御宿泊された由緒あるホテルで、今回老朽化に伴い敷地を拡張し新築することになった。

この地はかつて蜂須賀25万石の城下町として栄え、新町川のほとりに白壁土蔵の藍蔵が建ち並び、美しい都市景観を構成していた。その同じ地に建つこの建物は、今日の情報化社会におけるシティーホテル的役割と、かつての藍蔵が阿波の繁栄の象徴であったように、南国の青い空に白く輝くイメージをもっている。また本計画地が、北側にある城山と、南側にある眉山とを結ぶ軸線上に位置していることに注目し、歴史を今に止めるこのふたつの自然公園の間に、人と人との豊かな触れ合いの場となるべき人工的な広場を計画した。

敷地周辺は建物が込み入っているため、配置計画には特に注意を払った。8mの全面道路側をより有効なオープンスペースとして利用し、また道路越しに位置する旅館の窓とが向かい合うことを避けるために、建物および各部屋は道路に45度の角度をつけて配置し、すべての窓からは美しい眉山山頂や市の繁華街を正面に眺めることができるよう設計した。

この建物の1階には二つのシリンダー状のゲートが用意されている。ひとつは大地へのゲートであり、地下に向かってスキューバーダイビングと熱帯魚のプールが設けられている。もうひとつは天に向かってのゲートであり、エレベータ、階段による客の縦動線となっている。

ロビー回りは、広場、コロネード、さまざまな形のファサードなど街のエレメントを取り入れ、賑いのある雰囲気を作り出そうとした。中でも阿波フォーラムと呼んでいる円形劇場は、スキューバーダイビングの観覧席であると共に、さまざまな企画に対応できる、市民の為の広場である。建物概要は、客室数71(延床面積の25.8%)のほか、着席数230名の大ホール2か所、330名の大ホール1か所、中・小会議室、結婚式場およびスカイレストラン、バーなどがある。施設プログラムの特徴は、宴会部門をはじめとする収益部分の床面積比(26.4%)が大きいこと、設備の法的床面積が非常に少ないことである。屋上およびバルコニーを機械スペースとし、設備配管は外壁に設けた。

本計画は、企画、設計段階から旧建物の取り壊し、新築工事まで1年6カ月という超スピードであったが、無事完成し、天皇・皇后両陛下の平成元年最初の行事であった植樹祭の折の御宿泊の役目を無事果たすことができ、たいへん光栄に思っている。(中川巌)